ラノベ『扉の外2』

扉の外〈2〉 (電撃文庫)

扉の外〈2〉 (電撃文庫)

密室の中で行われる“ゲーム”。それには続きがあった……! 修学旅行に行くはずだった高橋進一が目を覚ましたとき、そこは密室で、しかもクラス全員が同じ場所に閉じこめられていた。詳しい説明のないまま“ゲーム”が始まり、高橋のクラスは訳がわからないままそのゲームに敗北してしまう……。
 配給を絶たれ、無気力に日々をすごすだけだった高橋たちだったがやがて転機が訪れる。新しいエリアが発見され、そして次なる“ゲーム”が始まったのだ。だが今度の“ゲーム”はさらなる過酷な対立を生むモノだった……! この“ゲーム”ははたして誰のモノなのか?

http://www.mediaworks.co.jp/users_s/d_hp/archive_bunko/bunko0705.php#6

第13回電撃大賞金賞。続編第二弾*1。限定空間に置かれた生徒たちのサバイバルとパワーゲーム。イラストは淡い塗りで、殺伐とした本編とは対照的な雰囲気。

前作では、クラス共同体から疎外された主人公が、外部に立つがゆえにクラス間の差異を捉えられる、という視点で見た構図だった。今作では、二人のアイドル的女子生徒を中心に、対立がもっと明確な形で現れ、「天使カード」や「悪魔カード」はその縮図になる。今回はまた新たなルールでゲームを行う。ゲーム自体はジャンケンのようにシンプルだが、それを巡る読み合いや揺れ動きは複雑だ。また、腕輪が外れて暴力禁止のルール外に出た生徒によって、バイオレンスの要素が出現した。そのことで状況に対する閉塞感はより一層強まる。

…もっと端的に言おう。本作にリアリティがあるとすれば、それは「いじめ」の構造がリアルなのだ。「バトルロワイヤル」をはじめもっと過激で残虐な表現をする作品がいくらでもあって、そこからすると一見生ぬるいように感じるかもしれないが、その生ぬるさがかえって身近な現実を反映している。この作品を読むと引き込まれて目が離せないが、いじめの現場から目を背けたくてもつい釘付けになるところに、それはどこか似ているのである。

*1:現在時点で、全三巻で完結予定

ラノベ『扉の外』

扉の外 (電撃文庫)

扉の外 (電撃文庫)

 修学旅行に行くはずだった高校生・千葉紀之が目を覚ましたとき、そこは密室で、しかもクラス全員が同じ場所に閉じこめられていた。訳もわからず呆然とする一行の前に、“人工知能ソフィア” を名乗る存在が現れる。
 ソフィアに示される絶対の “ルール”。だが、紀之は瞬間的な嫌悪感から、ソフィアからの庇護と呪縛を拒否してしまう。紀之以外のクラスメイトは全員そのルールを受け入れ、ルールが支配する奇妙な日常がはじまった。孤立した紀之はやがてひとつの決心をするが……。

http://www.mediaworks.co.jp/3taisyo/13/13novel3.html

第13回電撃大賞金賞。限定空間に閉じこめられた生徒たちの、頭脳のパワーゲームと心理のサバイバル。イラストは淡い塗りで、本編の殺伐とした内容と雰囲気が合わないが、それ位の方が和むかもしれない。*1

なかなか面白い。全体的にシミュレーション的な世界観で、SFというよりはまあ最近流行の限定空間ゲームものだが、直接的な暴力を禁じられているので、頭脳戦・心理戦になり、例えば「バトルロワイヤル」や「リヴァイアス」より「CUBE」が近いか。主人公にトラウマがあって、集団に対して疎外感を持っているのだが、これがまた絵に描いたような電撃文庫的シニカルさ。主人公は非コミュだが非モテではなく、クラスを支配する女の子たちに、微エロを含めてチヤホヤされる、というのはまさにギャルゲ・エロゲ的な構図だ。主な四人のヒロイン中、蒼井典子の痛烈なキャラ(と彼女の恐ろしいクラス)が、特に印象に残った。青い天使はデレツン。

しかし、オチが弱い。設定は良いが、その収束が弱い。今までの心理的圧迫感から外部に開放感があるのは当然だが、単にタイトル通りの結末になったからといって、何かが解決した気はあまりしない。つまり、バッド〜ノーマルエンド感が拭えない。例えば「魔界塔士SaGa」のラストは「扉の外」に出ないが全て解決したのに対して、本作は中途半端なまま放り出した感じ。この作品は金賞なのだが、同じ回の大賞は「ミミズクと夜の王」だった。人間が描けていないということなら、本当は「ミミズク」だって描けていないのだが、「扉の外」は感心はしても感動はしないので、その違いか。あるいは、人間に対して、「ミミズク」は幻想させ、「壁の外」は幻滅させるという違い。

*1:ちなみにイラストレーターについては、堀口悠紀子・どちび説が噂されている

ラノベ『バカとテストと召喚獣2』

バカとテストと召喚獣 2 (ファミ通文庫)

バカとテストと召喚獣 2 (ファミ通文庫)

いよいよ学園祭! 文月学園ならではの試験召喚大会も催される。明久達Fクラスは先の戦争に負けて以来「みかん箱」「ござ」という極貧の設備で過ごしてきた。そんな劣悪な環境と超頭の悪いFクラスに絶望した瑞希の父親は、なんと娘に転校を勧めているという。明久は学園祭の出し物で資金を稼ぎ、人並みの設備を購入、さらに召喚大会で優勝することで瑞希の転校を食い止めようとするが!? 新・学園ラブコメ第2弾!

http://www.enterbrain.co.jp/jp/p_catalog/book/2007/978-4-7577-3505-7.html

えんため受賞作第2弾。テストで召喚バトルする、軽いノリの学園ラブコメディ。今回は学園祭があって、「中華喫茶『ヨーロピアン』」でコスプレする。イラストの葉賀ユイが良い。

ブコメとしては、惚れられているのに主人公が鈍くて気付かないパターン。その鈍感さはとてつもないが、バカだから仕様がない。実質的に物語の展開を牽引する雄二が霧島翔子に釘付けされているのをはじめ、康太はムッツリーニだし秀吉は美少年なので、恋のライバルもなく、単調と言えば単調だが、ハーレムものはそんなものだろう。今回もバカが冴え渡る。

「バカテス」はバカコメやラブコメの面が目立つし、テストと召喚バトルに多くのページが割かれているが、実は青春学園物の部分が魅力的なのではないかと思う。バカはノスタルジーを誘う。ふつうの現代学園異能ものは、バトルが始まるとシリアスな展開になって、学園のドタバタコメディは後景に引いてしまう。だが、この作品ではバトルそのものがドタバタなのである。

ラノベ『バカとテストと召喚獣』

バカとテストと召喚獣 (ファミ通文庫)

バカとテストと召喚獣 (ファミ通文庫)

「こんな教室は嫌じゃああっ!!」 アホの明久は叫んだ。ここ文月学園では、進級テストの成績で厳しくクラス分けされる。秀才が集まるAクラスはリクライニングシートに冷暖房完備だが、彼のいる最低Fクラスの備品はボロい卓袱台と腐った畳だけ。
 明久は密かに憧れる健気な少女・瑞希の為、クラス代表の雄二をたきつけて戦争を始める。それは、学園が開発した試験召喚獣を使い上位組の教室を奪うという危険な賭けだった!?

http://www.enterbrain.co.jp/jp/p_catalog/book/2007/978-4-7577-3329-9.html

第8回えんため大賞編集部特別賞受賞作。テストで召喚バトルする、軽いノリの学園コメディ。イラストの葉賀ユイが良い。

「アキカン」が力のバカなら、「バカテス」は技のバカ、といったところか。小学生的(しかし本当の小学生には書けない)ボケを散りばめており、そのバカ丁寧なバカさは、もはや郷愁を誘う。「バカ・アホ」は親愛の情を示す言葉として使われるように、ベタなギャグは時にノスタルジックな感情を呼び起こす。中二病セカイ系に発展するようなメタのベクトルとは逆方向なのである。

バカは良い。しかし、「セックスと嘘とビデオテープ」のように三題噺だが、残りの要素であるテストと召喚獣の食い合わせはあまり良くない。作者は報告書の日本語がサッパリだと言われているらしいが、説明が下手でバトルシーンは何をやっているのかイマイチ分かりにくい。オチはベタだが、らしい結末。「アキカン」もそうだが、イラストで得をしている。後書きの霧島翔子の絵が一番可愛い。

ラノベ『ギロチンマシン中村奈々子―学級崩壊編』

ギロチンマシン中村奈々子―学級崩壊編 (徳間デュアル文庫)

ギロチンマシン中村奈々子―学級崩壊編 (徳間デュアル文庫)

「わくわく子育て大作戦☆」。それが新しい授業なの!? ロボットとの戦争で、いまや絶滅危惧種となった人類兵士の僕は、潜入した敵地──〈学園〉で、ふたりの少女とともに謎の授業を受けている。ひとりは〈学園〉最大の処刑人ことギロチンマシン中村奈々子。もうひとりは反〈学園〉闘争の英雄・赤ずきん。ロボットの親玉〈チェシャ・キャット〉の命によるトンデモ授業は僕らの心を徐々に狂わせていく。恋を告白して消えた奈々子。動揺する赤ずきん。僕たち三人の明日はどっちだ? 大好評シリーズ、第2弾!

http://www.tokuma.co.jp/edge/03kikan.html#_d0704b

ギロチンラブコメディ第二弾。ロボットの学園を舞台にしたSF的設定だが、そのことで少女たちの純粋さはかえって増した。また、イラストの中性的で無機的な少女のイメージが合っている。

今回も良い。キャラがより魅力的。特に赤ずきんツンデレぶりは、ギロチン奈々子を凌駕しており、奈々子がやさぐれている間に仲良くなってしまう。今作では主人公と奈々子と赤ずきんの三角関係を強調していて、そこに子供・教育のモチーフを絡めた。人間-ロボットの関係を先生-生徒・親-子などにズラしていき、登場人物の少なさ・人間関係の貧しさを埋めるというのは、よくあるカノン的手法である。しかしここでさらに、奈々子と違いまだ初潮も迎えていない幼女の赤ずきんに、演劇的に妊娠・出産(?)させ想像的な母親役をやらせる、という倒錯ぶりがラノベにふさわしい。

物語の要素はムダなくまとまっている。特にラスト付近の流れはお約束だが爽快。孤島の学園という限定空間で、登場人物も少ないミニマムな設定だから、構成を組み立てやすいのだろう。だが、話の筋の読みにくさは相変わらずだ。もっとも、「中村奈々子」が個体ではなく複数の存在を指す、ということだけ押さえて読めば、(セカイ系作品のように)複雑すぎて理解できないという程ではない。物語の謎はほとんど明かされてしまったが、まだ次回(高等教育編)に続くらしい。限定空間ものはふつう脱出するところで終わりなので、外部に放り出して続けると先が読めない。続きが気になるところ。

サイドバーに「ラクガキボード」設置しました

はてなダイアリー日記 - Amazonライブリンクおよびラクガキボードのブログパーツに対応しました

というわけで、さっそくためしに、サイドバーにブログパーツの「ラクガキボード」を設置しました。お絵かき掲示板の機能を最低限ですが持っています。誰でも描けるので気軽に描いて下さい。もしたくさん絵が集まれば、ふつうのお絵かき掲示板を借りますし、全然集まらなければ、後でこっそり外します。

ラノベ『ギロチンマシン中村奈々子―義務教育編』

ギロチンマシン中村奈々子―義務教育編 (徳間デュアル文庫)

ギロチンマシン中村奈々子―義務教育編 (徳間デュアル文庫)

右手は禍々しい刃、左手は得体のしれない機械──三つ編みにセーラー服、神々しいまでに美しい少女の名は中村奈々子。彼女は、ロボットが人類を滅ぼすために作った〈学園〉を守る最強の処刑人。で、僕は、あらゆるロボットの始祖〈チェシャ・キャット〉を倒すために〈学園〉に潜入した人間様の兵士……のはずなんだけど、なんですかこのラブコメ展開は! 日日日初の書下し萌え燃えSF学園アクションラブコメディ登場!

http://www.tokuma.co.jp/edge/03kikan.html#_d0610a

去年は月産一冊ペースという、人気作家「日日日(あきら)」の、渾身書き下ろしギロチンラブコメディ。

キャラが非常に魅力的で良い。ロボットと人間の違いを巡る哲学的考察や、学校制度への社会風刺のモチーフ…とかは薄っぺらいし、ラノベ的にもわりとどうでもよくて、身体欠損した少女(主役二人の両腕がなく、機械化されている)や、罵倒するサドロリ幼女やそのM字開脚が、メインの見所だろう。ロボットだらけの世界観なので、身体的・精神的な欠落が距離感を生まないどころか、親近感さらに性的魅力に反転するところは、設定の美味しさを引き出している。ラブコメのパターンとしては、強い戦闘少女に好かれて嬉しいが反面少し怖い的な展開。

不満点も書く。一つ目は、巻き込まれ型の主人公が、ただ巻き込まれている内に、強い少女たちがいつの間にか、物語を勝手に進展させていく印象があること。つまり物語が自動で進む感じ。二つ目は、常にはぐらかしているような物語の進め方・文章の書き方のせいで、話の筋をつかみにくいこと。つまり文章は上手いが血が通っていない。だが、作者自身が後書きで読みにくいだろうと書いてしまっているので、これは意図的なものか。主題が機械なので、このギクシャクした文体もアリかもしれない。イラストは無機質な明るさが、本作の雰囲気に大変マッチしていた。*1

*1:細かい指摘なので注に回すが、登場人物の顔が同じ、というSF的で非人間的な設定も、イラストの絵柄の問題と区別がつかず、あまり不気味さを感じなかった。もっとも、何となく似てる、でいいかもしれない