メイドさんプロジェクト


メイドさん欲しいなあちくしょう。本当どっかに転がってないかメイドさん
黄色く染まりつつある美しい銀杏並木の下を歩きながらオレは秋にふさわしい哲学をしていた。
「…あー、野暮なこというけど、メイドさんなんて手に入れてどうするのよ」
ささやかな愚痴に呆れながらもちゃんと突っ込みを入れてくれるこの隣を歩いている南河は超がつくほどいいヤツだ。
「そうだ! みなヤンがメイドになりませんか」
「だれの?」
「オレの」
「貴様が死んでこの世から消えたことが確認されたら考えてあげよう」
「あはは。再考してくるっス」
明るく笑って誤魔化すオレでしたが目がマジだったのを見逃すことはできませんでした。
「しかしメイドと冥土たぁまたレトロなご冗談をば。そかそか。みなヤンメイド化計画が潰えたとなると、ここはひとつ考えを改めなければいけないよね。そっかぁ、メイドさんプロジェクト。みなヤン、だれか心当たりはありませんか?」
「なんで敬語になってるの…。メイドさんね。ああ、2−Bの橋ノ下さんなんてメイドさん向きな人じゃないかな」
その時、オレに衝撃が走った。
いきなり《橋ノ下》。
いきなりその名前を出してくるとは。
説明しよう。
橋ノ下とは、2−Bの女王と名高い、橋ノ下清子のことであり、この学年の中では学力においてもスポーツにおいても頭一つ飛びぬけたエリート的な存在のクラスである2−Bにおいて、さらにそのなかでも橋ノ下清子は元締めであり女王様であり、この学校の2年生という我らが世代を完膚なきまでに支配している化け物じみたモンスター・オブ・モンスターなのである。ギャルゲーのヒロインどころの話ではない。
「いやいや、橋ノ下さんって普通の子だって…」
南河が何か言っているが耳に入らない。それにしてもさすがのオレでもあのモンスター・オブ・モンスターをメイドさんにしようという発想は無かったわ。その《メイド橋ノ下》というこの世にあってはならない可能性がオレの脳内にインプットされてしまったことで、イグノーベル賞級の科学者でも解明できないような化学反応が発生していた。言われてみると、たしかにそれは、面白い。ありかもしれない。いや、断然ありだ。オモシロイゾ。「おーいきいてるー?」という声が聞こえた気がしたがきっと幻聴だろう。
しかし、あの怪物的な女王様である橋ノ下清子にフリフリで扇情的な服を着せて、衆人環視の前に晒して萌え〜とか言われながら頬を染めさせ「止めてくださいご主人さまぁ」と涙ぐまなければならない(義務)メイドさんに仕立て上げてしまおうとは。
南河は大物だ。