ラノベ『扉の外』

扉の外 (電撃文庫)

扉の外 (電撃文庫)

 修学旅行に行くはずだった高校生・千葉紀之が目を覚ましたとき、そこは密室で、しかもクラス全員が同じ場所に閉じこめられていた。訳もわからず呆然とする一行の前に、“人工知能ソフィア” を名乗る存在が現れる。
 ソフィアに示される絶対の “ルール”。だが、紀之は瞬間的な嫌悪感から、ソフィアからの庇護と呪縛を拒否してしまう。紀之以外のクラスメイトは全員そのルールを受け入れ、ルールが支配する奇妙な日常がはじまった。孤立した紀之はやがてひとつの決心をするが……。

http://www.mediaworks.co.jp/3taisyo/13/13novel3.html

第13回電撃大賞金賞。限定空間に閉じこめられた生徒たちの、頭脳のパワーゲームと心理のサバイバル。イラストは淡い塗りで、本編の殺伐とした内容と雰囲気が合わないが、それ位の方が和むかもしれない。*1

なかなか面白い。全体的にシミュレーション的な世界観で、SFというよりはまあ最近流行の限定空間ゲームものだが、直接的な暴力を禁じられているので、頭脳戦・心理戦になり、例えば「バトルロワイヤル」や「リヴァイアス」より「CUBE」が近いか。主人公にトラウマがあって、集団に対して疎外感を持っているのだが、これがまた絵に描いたような電撃文庫的シニカルさ。主人公は非コミュだが非モテではなく、クラスを支配する女の子たちに、微エロを含めてチヤホヤされる、というのはまさにギャルゲ・エロゲ的な構図だ。主な四人のヒロイン中、蒼井典子の痛烈なキャラ(と彼女の恐ろしいクラス)が、特に印象に残った。青い天使はデレツン。

しかし、オチが弱い。設定は良いが、その収束が弱い。今までの心理的圧迫感から外部に開放感があるのは当然だが、単にタイトル通りの結末になったからといって、何かが解決した気はあまりしない。つまり、バッド〜ノーマルエンド感が拭えない。例えば「魔界塔士SaGa」のラストは「扉の外」に出ないが全て解決したのに対して、本作は中途半端なまま放り出した感じ。この作品は金賞なのだが、同じ回の大賞は「ミミズクと夜の王」だった。人間が描けていないということなら、本当は「ミミズク」だって描けていないのだが、「扉の外」は感心はしても感動はしないので、その違いか。あるいは、人間に対して、「ミミズク」は幻想させ、「壁の外」は幻滅させるという違い。

*1:ちなみにイラストレーターについては、堀口悠紀子・どちび説が噂されている