ラノベ『脳Rギュル ふかふかヘッドと少女ギゴク』

脳Rギュル ふかふかヘッドと少女ギゴク (ガガガ文庫)

脳Rギュル ふかふかヘッドと少女ギゴク (ガガガ文庫)

2007年人類は宇宙からの“脳R電波”による驚異にさらされていた。その怪電波を受信した者は脳髄を侵され、果ては人体各部から卑猥な花弁を吹き咲かせながら絶命する。脳R化した人間を追って、幻想都市、トウキョウ孤区のビルヂング群を駆けめぐる中央機密局一の危険人物、対策員“青年ボーイ”ギヤマと、夢見がちで妄想過多な天然元気女子高生対策員“少女ガール”シイ。群衆に紛れ込む脳R人間にシイが下半身で共振反応したとき、ギヤマの握る吐出ガンの引き金は下ろされる

http://www.gagaga-lululu.jp/gagaga/lineup/200707.html#01

夢野久作の「人間レコード」「少女地獄」などの原作を元に、オリジナルストーリーに「跳訳」した綺想活劇。巻頭にポスター風のイラストがあるほか、巻末の付録が充実している。

読みごたえのある力作。独特の世界観を構築している。「脳R」と書いて「ノアール」と読ませたり「ギュル」というような擬音を多用するのを始めとして、「少年ボーイ・少女ガール」という同語反復や、「懐中電話」に「ケータイ」・「三文小説」に「ラノベ」とルビを振ったり、大正浪漫風味でノスタルジックな文体(特に冒頭とか)と現代のラノベに近い文体を切り替えたり、文字の表現が賑やかで華やかだ。もちろん、スポーツ新聞の見出し的な仕様もない駄洒落遊びに堕する部分もあるし、単に読みにくい部分もあるけれど、少なくとも日本語の環境を十二分に活かしてはいる。

文字の表現だけではなく、物語の内容の方はどうか。夢野のどこか郷愁さえ感じさせる大時代な狂気を、ラノベ的な活劇にするにあたって、陰謀論的設定+エログロナンセンス=レトロ式セカイ系になった、という印象はある。しかし、序盤での囚人とのエスカレートする賭けとか、無目的で無軌道に白熱するところが、物語の大筋にあんまり関係ないけれど、引き込んで読ませる。同じガガガ文庫の「FREEDOM」が、正常で正統な大人への反抗ならば、「脳Rギュル」は任務に従っていながら、無軌道に脱線してしまう、というように対照的な構図だ。