9.


夏:


:ごめん、寝ちゃってた
 今ならだいじょぶだよ
:気にしなくていいよ。
 アイリ、疲れてるだろうし。
 好きな事しときな。
:じゃあ、電話して


「もう仕方ないな〜。
 そんなにチバさんと話したかったの?」
「切ろうかな」
「うそだよ、アイリ。
 けっこう寝てたの?」
「うん。本読んでたつもりだった」
「机で寝たの?」
「違うよ、ベッドだよ。
 机じゃ寝れないよ?」
「そうなの? 僕はどこでも寝れるけど」
「何か握ってないと寝れないんだよ。
 いつも頭のとこにある金属のラック握ってる」
「ぬいぐるみとかじゃないの?」
「ぬいぐるみもあるけど」
「なんかお気に入りのある?」
「かえる」
「かえる?」
「かえるのぬいぐるみ好きだよ」
「それ、かわいいの?」
「かわいいよ」
「だってみどりじゃないの?」
「かえるだからね」
「え〜? みどりいのはどうかと思うな」
「目も出てるよ」
「目、出てるの?
 ヤバい病気じゃない?」
「普通だよ?」
「でも、目出てる人あんま見ないよ?」
「人じゃないもん」
「人じゃないの?」
「そうだよ。かえるだもん」
「かえるの話してたっけ?」
「してた〜! 聞いてなかったの?」
「すんごい聞いてるよ」
「今何してる?」
HEY!HEY!HEY!見てる」
「聞いてないよ、この人。さいあく〜」
「だって、平井堅カッコいいんだもん」
「じゃあ、平井堅と話せば?」
「え〜無理」
「なんで?」
「ヒゲ濃いいじゃん。あれは愛せない」
「でもカッコいいんでしょ?」
「カッコいいね」
「じゃあ、ヒゲはがまんして」
「無理だぁ。アイリのがいいよ」
「なんで? 見たときないじゃん」
「だってヒゲないでしょ?」
「あるよ。超濃いやつ」
「じゃあ、ばいばい」
「ひどい」
「………」
「ねぇ?」
「………」
「ヒゲないよ?」
「ただいま〜」
「………」
「頑張る!」
「頑張る?」
「うん」
「なにを頑張るの?」
「ヒゲも愛せるように頑張る」
「そんなの頑張らなくていいから」
「え〜? だってアイリ、ヒゲじゃん」
「ヒゲないよ」
「え〜? せっかく頑張ったのに」
「じゃあ、平井堅愛して」
「もう愛しちゃってるから」
「愛しちゃってたんだ?」
「前に言わなかった?
 アイリのこと気に入ってるって」
「………」
「………」
「ダメだよ」
「なんで?」
「きっと見たらイヤになるよ」
「そんなヤバいの?
 あ、そっか目出てるんだっけ?」
「それはかえる」