第十二回萌理賞・選考結果発表

結果発表 - 小説部門

萌理賞(200pt)
  • サロメの恋人」
    • 謎めいた設定と、切ない恋愛と、季節感のある描写と、バランスが良く豊かな文章になっています。特に「彼女の身体は、首の少し下からが海に溶けて、波が来る度に濃さがゆらゆらと変わる。」と「りん、と無人の海の家から濁った水晶のような風鈴の音がした。」という部分は、投稿作全体で一番、夏の情景を感じました。全体的に、水のように淡い良質な言葉が使われています。ただ、「他の誰の4倍よりずっと、夏の事が好きだ」の箇所は、感情を吐露する場面なのに、「四」にこだわりすぎて、理に落ちている感じがします。それにややくどい言い回しです。「ちゃんと身体のある人と付き合って〜」に対する言葉だから、無難に行くなら「他の季節が巡る間もずっと、夏の事を想っていた」くらいでしょうか。
萌賞(50pt)
  • 「Never Let Me Decide」
    • 結末が綺麗。冒頭と結末の一行だけ読むと凄絶なのに、中身がひねって半回転してあるというのが面白いです。辻斬りの態度が急変する、ツンデレ効果が萌えの呼び水になっています。斬られると迷いが晴れるという設定は異能としても面白いですし、投稿作で一番、良い意味でラノベっぽい作品だと思いました。ただ、「辻斬りに適さない服」とか抽象的ですが、辻斬りの描写はもっと具体的に書いていいと思います。例えば、フリルが増えたとか、色が明るくなったとか。極端に行くなら、鎖かたびらからゴスロリへ、とかでしょうか。
理賞(50pt)
  • 「梅雨明けのジレンマ」
    • 題に「時計仕掛けのオレンジ」みたいなセンスを感じます。ここでのジレンマとは、「愛おしい左腕と、憎らしい右腕」(それぞれ腕と時を刻んでいる?)のことですが、この一文を題にしても良いでしょう。(たぶん)後ろから抱きついただけなのに、「急に彼女が視界から消える」〜「僕は文字通り、彼女の両腕に支配されている」と表現する、もったいぶった書き方が上手いですね。投稿作で一番文学っぽく、字数がちょい多めなものの、全体的によく練られています。「ふわりとした重み」というのもまた奥ゆかしい。ここで「プッチンプリン」などと書いてしまっては雰囲気が台無しですね。
特別賞(20pt)
  • 「ところてん式彼女」
    • なんかワケワカメだけど面白い! 投稿作で一番インパクトがあります。「じゃあ後ろからおじやで押すね」「ところてんのように噴き出してきた」が変に印象に残ります。「深夜、「ぴぴぴぴぴ」と鳴き夜食を乞う。」というのは携帯が鳴ったのでしょうか。表現がユニーク。ただ残念なのが一つあって、タイトルでネタバレしている上に、最初の一行でもネタバレしているから、結末の意外性が弱いことです。400字しかないんだから、最初にあらすじを要約しなくても大丈夫だと思いますよ。

結果発表 - 原作部門

大賞(100pt)
  • 「ゴス・ヴァン【Goth-Vam】」
    • 自動的に大賞。ファッションの設定は初めてなので新鮮な印象です。説明が的確で、かなり単語に凝っています。例えば、「D-induS」の「S」が大文字だとか、細かいこだわりを感じます。

結果発表 - イラスト部門

大賞(200pt)
  • 「無題(「海」「水着」「眼鏡」「三つ編み」)」
    • 自動的に大賞。水と黒髪の対比が映えます。三つ編みで眼鏡というと大人しいキャラが多いですが、この作品ではツンデレっぽいですね。誰かのために水着を着たという設定でしょうか。

参加賞(10pt)

  • 残りの参加者全員

総評

萌理賞の「サロメの恋人」に、「クーラーボックスの蓋は開いている。」という記述がありますが、これは上手いと思います。「いつも何か忘れてる」にも「クーラーボックスから生首が生えていた。」という記述がありますが、こちらはサプライズです。

蓋が開いているのがなぜ上手いのか。閉じていれば飲み物でも入っているのかと思いますが、「臨海学校の授業を抜け出して」いることだし、彼女を入れて持ち運んできたのではないかと、解釈できるでしょう。海には入れるけど、暑さには弱いのかもしれない。そうなると、ただでさえ夏しか存在しないのに、普段遊び歩くこともできない、ということになります。

そういう状況に置かれている彼女が、他の人と付き合った方が良いのではないかと提案し、またそれをきっぱり断る主人公とのやりとりに、非常に切なさが漂うわけです。その辺に、直接「えっちいこと」はしなくても、関係性のエロスを感じます。

さりげなく濃密な行間を書いてあると、どうしても評価したくなります。「ところてん式彼女」の「筒」も、意外な移動手段という点では同じなのですが、筒でなくてはいけない、ところてんのように押し出されなくてはいけない、という必然性までは感じませんでした。

だから、「実はAだった(A=女・幽霊・ループ世界・ところてん…)」という一つの仕掛けだけではなくて、書いた言葉の間に意味のつながりを出して、仕掛けを活かして欲しいと思います。400字で世界を築くのは難しいとは思いますが、そこにまた、創作の醍醐味もあると思います。

次回予告

六月を抜かしてしまい、申し訳ありませんでした。去年から毎月続けてきたのですが、ちょうど一年目で一月休んでしまいました。八月の次回も、「夏休み」をお題に入れます。今回は海に偏ったのですが、「夏祭り」「花火」みたいな風物詩も欲しいですね。他には、人物をお題に入れる案を考え中です。

原作とイラストが自動受賞になってしまう件ですが(もちろん応募なしより全然ましなのですが)、萌理賞はシンプルに文章だけにして、原作はwikiで自由に書いて、お絵かき掲示板を設置する、という方向もあるかもしれません。でもなるべく色々なジャンルで参加できる方がいいとも思うんですが…。

さて、投稿者の方も読者の方も、お疲れ様でした。また来月の萌理賞をお楽しみに。

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