第七回萌理賞小説部門・選考結果発表

結果発表

萌理賞(200pt&いるか)
  • 「壊れた人形」
萌賞(50pt)
  • 「BLOOD SCOOP ARMYGIRL」
佳作(20pt)
  • 「雪と共に落ちぬ」
  • 「にわにわにわにわとりがいて」
次点(10pt)
  • 「完璧な麻薬」
  • 「スイートケーキガール」
  • 「1944年6月4日 早朝 ラ・ロッシュ・ギュイヨンにて」
腐賞(10pt)
  • 「Quantum probability Zero っていうか、そしてだれもいなくなった……というか誰でもなくなった。」
参加賞(1pt)

残りの参加者全員

結果発表(原作部門)

大賞(100pt)
  • 「生徒会」
佳作(10pt)
  • 「学園の売店
  • 「学校の裏山」
参加賞(1pt)

残りの参加者全員

選考講評

参加賞
  • 「にぎる」


参加賞(というか今回の投稿全体で)は数が多いので、特に惜しかった(下記の問題がクリアしていれば萌理賞もあった)この作品で代表して、なぜ参加賞にしたのかを述べておきます。まず、単純に字数オーバーです。文字数制限は格闘技の階級のようなもので、減量は苦しいでしょうが、字数が多い方が有利なので、差し引いて評価します。そこでこの作品の場合、「ひどい人生」で終わって、最後の段落を削れば、1.文字数が誤差二割以内に収まり、2.殺伐とした話にもならず、3.結末に想像の余地を残す、と綺麗にまとまるような気がします。



最後の段落を削ることについてもう少し言うと、萎え落ちを嫌う私の主観も多分に含まれています。また原作を見ると落ちの必然性がもう少し強くなります。しかしですね…、やはり「にぎる」の題や「ガン無視」「マジ立腹」のような文体と、最後のシリアスな落ちとの、バランスが悪い面はあると思います。前半を読んで、じゃあこれからも「うふんとろん」でいけばいいじゃんという気分になって、主人公にいまいち感情移入できません。この書き方なら一緒に逃げる位の落ちが丁度良いでしょう。シリアスとかホラーとかギャグとか色々なジャンルがありますが、全体のトーンを統一する、デザインするという視点が欲しいです。カードゲームでカードを集め終わってブックを組むときに戦略性が出てくるように、文字数に達して推敲で単語を取捨選択するところで、創作性が出てくるのだと思います。


また、「にぎる」の題は握手の温もりと銃身の冷たさの対比でしょうが、でもラストの強さに比べると、あまり見栄えがしないような…。真面目に行くなら「彼女の生業」、「最後の握手」、ネタっぽさを出すなら「うふんとろん」、他にも「悪趣味なボスへのクリスマスプレゼント」、「右手に残る温もりが消えてしまう前に」など、もっと良い題名候補が本文中にたくさんあります。字数が短いままで無難なのは「温もり」かな。いずれにしても、題名は作品の顔なので、ちょっともったいない気がしました。

腐賞
  • 「Quantum probability Zero っていうか、そしてだれもいなくなった……というか誰でもなくなった。」


これも1.結末が蛇足 2.題名が弱い という二点を抱えています。1については、ラストの「時空警察」云々は唐突なので、題と冒頭が関連してるのは分かるんだけど、もう少し巧妙な伏線が欲しいですね。2については、「Quantum probability Zero」のみでいいんじゃないかと思います。どんな関係にでもなれるという設定が万能過ぎて、(主人公が男だとして)同性愛の禁忌の魅力が薄れてしまうような気もします。と、色々問題を抱えていますが、発想は面白いし「にぎる」のように萎え落ちという程でもなく、更に貴重な美少年ものなので、腐賞という位置付けになりました。

次点
  • 「完璧な麻薬」
    • インデントで外面と内面の描写の使い分けをしているのが面白いと思いました。これから(おそらく)陸上競技か何かの試合に出て行く一瞬を切り取った構図も鮮やかです。本文からすると題が飛躍していますが、印象に残ります。スタイリッシュですね。
  • 「スイートケーキガール」
    • クリスマス→(少女が)サンタ・(少女が)プレゼントという定番ネタは今回多かったのですが、その中でこの作品は一番まとまっていたので選びました。特に落ちが綺麗ですね。やはり全体的にベタですが、萌えのツボはしっかり押さえています。
  • 「1944年6月4日 早朝 ラ・ロッシュ・ギュイヨンにて」
    • 「史実や戦記をいじる」という意欲的な試みで、かつ、ただ実験的なのではなくて、今回の軍人のモチーフにきちんと合わせているのが良いですね。「唇に残った蜂蜜」とか美味しい描写も含ませています。
佳作
  • 「にわにわにわにわとりがいて」
    • 「ですから僕は人間の少女を注文したはずなんですがね」の出だしが最高。発想が面白いです。ただ、冒頭でこれからどうなるかと思ったら、結末はそれほど意外でもないような…。昔話で狸を煮て食べちゃうみたいな展開に似ています。例えば、実はこの世界では人間と鶏の違いは瞳の色だけだった、とか、そういう二重三重の仕掛けがあったら面白かったと思います。
  • 「雪と共に落ちぬ」
    • ラノベっぽい。沙都子にプレゼントをやる悟史のように死亡フラグが立った感じの主人公の元に、「ある日少女が落ちてきて」、その彼女は偽長門で宇宙人だった。知っている人には組合せが面白いと思うんだけど、あくまで基本はオリジナルなので、パロディに萌理賞は渡せないですね。そう甘くはないところです。
理賞


これを萌理賞にするかどうかで迷いました。今回の軍人というモチーフと、クリスマスという季節に合っていて、戦車に電飾をつける場面も絵になるイメージなので、全体的に良いのですが、もう少しの差で三連覇は逃しました。上手く説明できないんだけど、前回前々回の投稿作の、教室の静寂さや頭に雪が積もる描写に比べると、ちょっと嘘っぽいというか、既存の虚構のイメージに引き摺られている印象があります。大部分の人が戦場を経験したことがないので、リアリティがない(というか私がリアリティを感じない)のは仕方ないのかもしれませんけどね。でも題も坂本龍一の曲名そのままだし。あともう一歩です。

萌賞
  • 「BLOOD SCOOP ARMYGIRL」


とにかく「しゃもじ」の印象が鮮烈な作品です。「にわにわにわにわとりがいて」が全体的にシュールな世界なのに対して、こちらは一点突破。ほとんどSFに近い「しゃもじ」の設定が許せるかどうかで評価が全然違ってきます。説明してしまうとつまらなくなるので、この書き方が正解でしょうが、やはり「なぜしゃもじ…」という疑問が取り残される感じはあります。萌理賞は「萌+理」なので、あと一歩。

萌理賞
  • 「壊れた人形」


決して奇抜な設定ではないのだけれど、クリスマスに「墓地」というのは他の人がやらなかった。「私は賑わう町に背を向け、墓地へと向かった。」という渋い一文に、この作品自体の独自性が出ています。この手の話は暗い過去を回想するだけの、ただ殺伐とした話になりがちなんですが、紙一重のところでヒューマンなドラマになっていると思います。つまり、兄を亡くした主人公の妹に強い共感を感じます。最初に挙げた「にぎる」が具沢山だけど食い合わせが悪い料理なら、この作品は「冬」「クリスマス」「セーラー服」「純真」「兄妹愛」「三角関係」「未亡妹(?)」などといったどれもが直球の素材なんだけど、選び抜かれた組合せといった感じがするんですね。中途半端なことをしていない。やはり短編創作小説なので、一つの完結した世界を作る、という部分を評価しています。

選考講評(原作部門)

参加賞
  • 「無題(萌えエージェント)」
  • 「潤井 由華(うるい ゆか)」
  • 「井筒えりす・大野江ありす」
  • 「高宮みのり」
  • 「菟剣 司朗(うつるぎ しろう)」
  • 「萌理学園ダウジング研究会」


「萌えエージェント」は面白いのですが、ここでも具沢山だからいいと単純にはいきません。「裏教育庁」という官庁がエージェントを派遣する理由が全然分からないし、「戦闘時には〜変身」というのもやや欲張り気味です。そもそも一人で何でも変身できたら、他のキャラがいらなくなっちゃうし…。魔法少女ものでも大抵は平常時と変身時の二つだと思います。また「彼女の活躍(または失敗)により、学園はドタバタの大騒ぎ」みたいなことは、作り手は皆そういうことを考えるので、蛇足でしょう。


人物はどれも問題ないですが、一人を賞に選んでしまうと、なぜ他の人物ではダメなのか、という事態になってしまいそうなので、今回は外しました。選考に入ってみてから分かったのですが、意外と人物のイメージが浮かばない…。これはラノベがなぜキャラのイラストを表紙にするか、ということとも関係がありそうです。この問題に関しては、イラスト部門と上手く連動したり、記述のテンプレを用意したいと思います。例えば制服の絵があるだけでもイメージしやすくなるでしょう。


部活・研究会に関しては、「ネギま」の「図書館探検部」や「チュパカブラ研究会」のようなニッチなものがあるのは面白いのですが、やはり基本的な部活は最初にデフォルトで用意しておいた方がいいのかなと思いました。改善の余地が色々あるところで、私の課題です。

佳作
  • 「学園の売店
  • 「学校の裏山」


学園ものでは定番の要素なんですが、この二つは、あって損はない設定だと思わせるところがあります。裏山ならダウジング研究会がそこで活動する、という風にコンボになるので、使う機会が多そうです。…こうしてみると、ちょっと人物と場所を同じ土俵で選ぶこと自体がおかしい気もしますが、「萌理賞::小説部門::原作部門::人物部門」のように細分化し過ぎるのもどうかなと思います。選ぶ側の基準がまだ固まってないのでオーソドックスなものを選んでしまったという面もありますが、ただ「ひぐらし」でも裏山はでてきますし、やはり必要性を感じました。「学園」「学校」などの表記の問題とか、細かい話は後でまとめます。

大賞
  • 「無題(生徒会)」


一見するとシンプルですが、応用が利くと思います。「極上生徒会」とか、あと「くじアン」なんかも生徒会ものですが、そういう作品は大抵が生徒会の一党独裁になっています。そうではなくて、生徒会が無数にあって群雄割拠している、という発想が画期的だと思いました。「裏教育庁」からのエージェントだと、それが主人公の話になりがちなので、それより潰しが効きます。

コメント

原作部門の追加により、30人の枠近くまで投稿が増えました。しかし、それに伴い、講評の負担も増えました。書いても書いても終わらない感じです。それで今の萌理賞は過渡期で、今は私が方向性を決めていますが、最終的には参加者が互いに講評したり投票したりするシステムを考えています。原作部門のまとめはWikiが必要ですし、メルマガなども便利なので、コミュニティサイトを作ってそこで開催したいのですが、ログインがあっても参加してくれるか、はてなを離れても読者が付いて来るか、という点がネックになって先送りしています。参加者が50人になったら、もう一人では収拾がつかない規模なので、そのときは完全に移行しようかなと考えています。あるいはβ版の新会場を作って、段階的に徐々に移行する手もありそうです。

次回予告

さて次回は、来年1月20〜27日頃に開催予定です。原作部門の設立によって、形態が大きく変わる予定です。課題モチーフは未定です。基本的には今回実験的に始まった「萌理学園」をメインに据えようと考えています。学園に限定してしまうと不自由になるという危惧はあるかもしれませんが、学園を舞台にしたミステリもSFもファンタジーもホラーもコメディもできると思います。「ガンパレ」なんかは学園で戦記を展開していますし。さて、参加者の方も読者の方々もお疲れ様でした。また次回をお楽しみに。

お知らせ