第五回萌理賞選考結果

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選評

参加賞

「敗戦の理由」、「憧れの職業」、萌えをメタに見たりネタにするのは上位にいかないんですね。メタ・ネタ萌えそれ自体には萌えない、という素朴な理由が大きいです。「ある兄妹のデレデレ」、「緋色の記憶」、「鏡の夜」、「もっと好きに、なってくれるのなら。」、「ぺいんしふと」、講評でも述べたように、分かりにくい部分があって損した作品ですね。400字しかない中で説明不足にも説明過剰にもならないようにするのは難しいと思いますが、少しの言葉の選択で全然違って見える、というところに短編の面白さ、腕の見せ所があります。「ライバルは、いくつになっても」、「神無月だけど神様います」、「ブレインウォーカー」、あともう少し味付けでダシが出ていればうまい作品になると思います。

期待賞

「世界一の名医」、先輩小芝居系の作品で、もっとハイテンションで小ネタを詰め込むと面白いでしょう。「体温計」、変な部活系の作品で、もう少しひねりがあると印象に深く残ります。「廃校舎の霊退治」、動きがある作品で、最後まで気を抜かなければさらに完成度が高くなります。「清らかなる慈愛」、ドラマがある作品で、こういうファンタジー系の設定は読者に想像させます。

次点

「すべては医学の進歩のために!」、イラストというだけで手が掛かっていると思いますが、キャラの衣装を豪華にしたり、人物を複数にしたり、たとえ素材でも背景をつけてみたり、手を入れることでさらに密度の濃い作品になるでしょう。「マグロ女と純白の堕天使」、人物の行為が強い作品なので目立ちますが、「マグロ」は全体のトーンからちょっと浮いている気がします。「神無月の出張」、とてもオーソドックスで良いのですが、文字数が多いのがマイナスです。

佳作

「正義のナース」、ほとんど不満はないですが、あえて言えば、「正義」というからには、主役は主役らしく、敵役は敵役らしく、といった主従の関係がはっきりしていた方がよいでしょう。「声」、何かを「表現」するという点において、全作の中で一番先鋭的な作品で、これを入賞にするかどうかが選考の焦点でした。文章自体は申し分ないのですが、「萌え」というテーマと「秋」などのモチーフがほとんど関係ない、という点が惜しいですね。もう萌理賞の枠には収まりきらないのかもしれません。

入賞

「秋色の教室」、とにかく地味な作品ですが、読んでいてまさに「秋」という感じがしました。一見すると平凡なようですが、よく読むと味わいがあり、完成度が高いことに気づきます。


まずカタカナを用いていないので、「マグロ女と純白の堕天使」の「マグロ」のように浮いた言葉がないですね。主人公は喋らないし、「白衣を彼女の肩にかけ」る行動には、「廃校舎の霊退治」の「どっちが、だか。」のような抵抗感はありません。「な」「ね」の呼びかけの反復を用いた会話は、「神無月の出張」などと比べて、普通の口調でも微妙な綾がついています。「巫女喫茶」は作品内ではわりとメタに見ているのですが、たった四語でも想像すると萌えます。日常の情景なので描きやすいとはいっても、分かりにくかったり全体を台無しにする言葉を丁寧に避けている、という痕跡は伺えます。


しかしでは、単に文章の見栄えが整っているというだけで選んだ、というわけでもありません。「校庭から聞こえる野球部の掛け声だけが耳に響く静かな世界。」という一文は素晴らしい。これは一見するとただの平凡な言葉のようですが、とても自然で実感に訴えます。ここが例えば「もっと好きに、なってくれるのなら。」と違います。学校を離れた人間がその場所を振り返る時に、「あ、そういう時間って貴重だったんだな、そういう時間をまた誰かと過ごしたいな」と強く感じることがあります。この感覚は萌えというよりはもう少し渋い感覚のような気もしますが、とにかく嘘臭くない痛切さをもっています。リアルなんです。

総評

今回、「文章中の結末近くで、ちょっと筆が滑ると全体が違って見える」といった微妙な指摘が多かったのですが、それは裏を返せば全体の質が向上して、より細部に目が向いているのかもしれません。もう一つ、「設定や感情など、何となく分かるけど、でもはっきりと分からない」という指摘も相次ぎました。「分かる」というのは表現のベースになることなので重要です。要するに細部と全体を両立させるのは難しいのだけれど、そこが腕の見せ所になるのでしょう。


さて、今回で五回なので、萌理賞には計100作品が投稿されたということになります。短編はこうして集めて読むと、個々で読むのとはまた違った印象があると思いますが、そうした雰囲気を感じてもらえれば幸いです。読書の秋にまとめて読むのも楽しそうです。参加者ならびに読者の皆様には、これからもよろしくお願います。

予告

次回も月末の週末、11月22〜24日頃を予定しています。課題モチーフは、「冬」*1「バニーガール」「チャイナドレス」「スチュワーデス」「バス(ツアー)ガイド」「温泉・露天風呂」を用意しています。文化祭はそろそろいいでしょう。学園もので行きたければ、学生が冬休みに旅行に行く、というのが書きやすいと思います。もちろん、温泉の近くにスキー場があってはいけないという決まりもないので、工夫の余地は色々あるでしょう。


今回、定員枠が埋まるのが早すぎる、という声がはてブで続出したので、次回から枠を30人に広げる予定です。一方で主催の負担が増してしまうので、講評はここで上位者を中心に行う形に切り替えられたらと思います。欠点を指摘する方が神経を使うので、褒めるだけにすれば楽になります。何で落ちたか分かりにくいのは問題だと思いますが、それはこれまで五回の選考を見てもらえれば。また萌理賞の傾向と対策、みたいな記事を載せるのも面白そうです。あとネタが冷遇されているので、「ネタで賞」みたいな部門賞を作るというのも一応考えてます。

計画

あと、「萌理賞メールマガジン化計画」という企画を考えている最中です。毎月30作集められれば、毎日1作ずつメルマガを配布できますからね。主催側としては、将来的に購読者が伸びれば広告を付けられるかもしれません。萌えマガでは萌理賞の分まで回収できないので。参加側としては、一人で毎日連載するのは凄く大変ですが、みんなで集まれば日刊のショートショートマガジンが作れるというスケールメリットがあります。読者側は、どれくらい需要があるか分かりませんが、400字で毎日ちょこっと読めます。本当に実現するかどうか分かりませんが、アイディアだけ書いておきます。

お知らせ

はてなリング - 萌理賞リング
萌理賞に投稿されたことがある方は、よろしければこちらにもご参加ください。

*1:「秋」が二回になってしまいますが、雑誌みたいに季節を前倒しにすることにしました