第四回萌理賞選考結果

question:1158928009 (開催場所)

選評

作品全体の質が向上する一方で、実力が均衡してきて順位付けに苦労しました。そこで選考過程を記してみたいと思います。それによって判断基準に納得がいかない人がまた新しい賞を作ったりすれば、それも進歩だと思います。

参加賞

『秋は別れの季節』駄洒落がメイン! 「めいどのみやげ」のように小道具として使うのはアリです。『I'm wind "Wait"ress』ギンナンを拾う経験があると、かえってイチョウの美しさって実感できないんですよね。『初デート』説明調の会話が単調で、事態の深刻さが伝わってきません。『一つの難題』ゴスロリかぐや姫の見立ては新鮮ですが、膝を打たせるほど似合っているか。『恋する颱風』非常に面白い発想ですが、単純に台風が恋をするところがイメージできませんでした。賞の初期作品に雨女を扱ったものがありますが、人物という皿に上手く盛るのも技術だと思います。


『変わらない笑顔で』きれいにまとまっていますが、やや息苦しい印象もあります。一途な女の子は良いのですが、萌えがテーマなので、もう少し肩の力を抜いてもいいかもしれません。『そして、いつものように』冒頭の目覚まし声が楽しいんですが、設定だけという印象が拭えません。例えば「メイドさんといっしょ」だと、それまでの関係が微妙に変化するわけです。『いやがらせ』大事なのは二人の関係だと思いますが、叙述トリックがあまり感動に結びつかない印象です。別に女装しててもしてなくても大勢に影響ない、という気になってしまう。これが「めいどのみやげ」の場合、生死によって全く事態が違ってくるわけです。『無題(千年琥珀)』これも叙述系ですが、やはり猫だったというだけでは弱いですね。『無題(面影)』上手いのですが、前回までの作品ほどの広がりを感じませんでした。

期待賞

『ウェディングには早いけど。』オーソドックスな作品を安定して書けるのはとても大切なことです。この作品を基準に半分に分かれます。『幕間』設定が謎に包まれていますが、実験的作品は必要でしょう。ただ、同じ言葉を連呼しただけでは、あまり踊っているところを想像できません。『めいどのみやげ』賞では幽霊ものの前例がある程度あるので、上位へはいけませんでしたが、内容自体は良いです。駄洒落も多いですが、あくまで小道具にとどめて、二人の切なさを軸に描いています。『ゴシック・ロリータ』唯一、重厚な歴史物だったので選びました。しかし、一番文字数が多い作品でもあり、字数が多ければ有利です。規定の文字数で書いていたら更に上位でした。

次点

『無題(メイドさんといっしょ)』正統派のエロス。付け足した題があまりしっくりこない感じです。こういう展開にはガーターベルトが欲しくなります。さらに倒錯的で耽美的な展開にできると思いますので期待。『ハッピー・サンデー、スウィート・スウィート・エスコート・タイム』おかっぱで幼馴染はわりと定型ですが、そこに更にバレエだとか色々くっつけて、お約束ながらも生き生きしたキャラを作っています。映画とか、映像的なイメージが想像できるので印象が濃くなっています。『にゃんこついん・おきゅうじします』イラストは貴重。タイトルも女の子も可愛らしい。イラスト参加者は時間的に大変だと思いますけど、ラフな線と塗りがもっとクリアになればより上位に。

佳作

『移ろうということ』落ち着いていて良いのですが、展開のドラマ性やオチの意外性など「強さ」も欲しいところです。『ぼくの彼女のロケットパンチロケットパンチの一発ネタ勝負ですが、実際に発射せずに間接的に描いているのと、オチが弱いところが入賞まであと一歩という感じです。ロケパンをメインに据えてしまった以上、理屈オチより大暴れしたいところです。

入賞

『Wanna Be a Goth Girl』実はmizunotoriさんの作品では、前回の作品の方が萌えて、さらにその前回の作品が一番萌えました。「私は美少女」「姉が妹に」といったコンセプトがシンプルかつ強力で、それだけでライトノベルが一冊書けそうなネタです。三作品トータルで入賞したというわけではないですが、数回にわたる投稿で一つの世界観を築いてしまう(tplusfさんやukparaさんにも作家性を感じます)のは一つの武器として認められるでしょう。


作品の内容に触れると、「ゴスロリ少女の知られざる素顔」に迫ったような、お約束のイメージを変奏しようというところが他の作品と異質で、たいへん画期的です。単にお約束の記号を使えば「萌え」なのではなくて、その定型の要素を踏まえながら、材料を上手く組み合わせて、新鮮なイメージを作るということが大事だと思います。


投稿作の中ではポエム系に分類されるでしょうが、『I'm wind "Wait"ress』に比べるとタイトルが分かりやすく字面も映えますし、現実をスパッと捨象してて、クサさに耐えて読めます。また二人の対話形式を採用したことで、ヒロインの純粋さは維持した上で、『変わらない笑顔で』のような固さ・息苦しさを感じさせません。オウム返しの会話は『初デート』と、結婚のモチーフは『ウェディングには早いけど。』や『一つの難題』と共通しますが、それらとは微妙に処理が異なり、文章の自然な流れ(現実的・写実的ということではなく)があります。例えば『初デート』のように深刻な状況ではないですし、前後で分裂していません。そういうことを総合的に考慮すると、難しい言葉は全く使っていないけれど、実は完成度が高い作品だと思います。

総評

ゴスロリなど衣装の細部を描写した作品が見当たらないのが残念でした。今までの講評で「ドラマが大事」と強調し過ぎたせいもあるし、ライトノベルなどで文体が簡略して描写を省く傾向もあるし、単に衣服への執着が薄いのかもしれません。確かにわれわれが人間である以上、最初の興味はまず人物・キャラにあると思いますが、細部へのフェティシズムがお約束の枠を逸脱するような萌えに続いていると思います。


それと、「メイド喫茶」が出てきても(「にゃんこついん」は当てはまるかもしれない)良さそうなものでしたが、意外と話が作りづらいのかもしれません。さて、読者や投稿者の方はもちろん、作品や感想をトラックバックで寄せて頂いた方々も、本当にありがとうございました。次回も開催する予定ですので、たくさんのご応募お待ちしております。

予告

次回も月末の週末で、10月27日頃を予定しています。課題モチーフは、「秋」「巫女」「シスター」「女医」「ナース」を用意しています。洋風のメイドの次は和風の巫女。秋の文化祭を利用した学園物などはできますし、制約の中で自由を求めて、設定を工夫してください。ちなみに、「秋ナースは嫁に食わすな」とかでの入賞は厳しいですよ…。「恥ずかしい駄洒落禁止!」