5.


「こんばんはー!」
「チバ、だよね? ヘンなの」
「………」
「チバ?」
「え! あ――、ヘン?
 なんで? 普通じゃん」
「んとね、もっと声高いと思ってた」
「僕は、もっと声低いと思ってた」
「あたし、声高いんだ?」
「うん。そうじゃない?
 カラオケとか上手そうじゃん」
「あんま歌わないよ。
 恥ずかしいし」
「恥ずかしいんだ? 珍しいね」
「そうかな?」
「みんな、カラオケ好きじゃない?」
「まあ、そっかな。
 チバ、なにしてるの?
 スマスマ終わった?」
「ん〜? ないしょ」
「ないしょ?」
「ないしょ」
「言えないことしてるの?」
「ん? 言えないことってなんだろ?」
「いろいろあるじゃん。言えないこと」
「例えば?」
「……言いたくない」
「あ、なんかエロいこと考えてるでしょ?」
「ちがうよ。それはチバでしょ?」
「チバは絵を見てるの」
「え? ――って絵?」
「うん、絵だね。
 今日、画集買ったからさ。見てるの」
「おもしろい?」
「おもしろいよ。勉強になる」
「チバ、勉強きらいじゃなかった?」
「あ、きらい」
「なのに勉強してるの?」
「じゃあしてない」
「さっきしてるって言った」
「言ったっけ?」
「言ったよ。絵、見てるって言った」
「絵は見てるかもね〜」
「どんな絵?」
「風景とか」
「ほんと?」
「ほんとだよ?」
「そんなの見て楽しいの?」
「けっこう楽しいよ。落ち着く」
「あたしと話すより楽しい?」
「ん――、それはむずかしい質問ですね」
「まあ、いいけど」
「アイリさんと話してる方が楽しいです!」
「うそっぽいよ?」
「ほんとだよ?」
「でも絵、見てるでしょ?」
「見てないよ?」
「見てるよきっと。」
「そんなことないよ。
 今はアイリと話してる方が大事だもん」
「ふ〜ん」
「心配してるんだよ。
 今もとなりにいるんでしょ?」
「うん」
「聞かれてる?」
「うんたぶん」
「僕のアイリに何するんじゃ!
 アホー! 出て来いこのやろう!」
「出てこないから」
「え〜」
「………」
「アイリ、無理してない?」
「――だいじょぶ。
 明日になったら元気だから」
「無理してるよ、この子は!
 チバに話してみな! きっと楽になる、なるよ!」
「もう話してる」
「そうなの?」
「うん」
「楽になってる?」
「うん」
「ほんとに?」
「ほんとだよ」
「むぅ……」
「じゃあ、そろそろ切るね。
 ありがとうね、チバ」