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:この前のひと、どうだった?
 楽しくお食事できた?
:無理。ありえない。
:そんなひどかったの?
 聞かせてよ
 電話していい?


「こんば〜」
「……こんば」
「なに? ヘコんでるの?」
「………」
「チバ、おもしろいよ! おもしろ〜い!
 ねね、なにがあったの?」
「なにもない――かな」
「えー! そんなわけないじゃん。
 会ったんだよね?」
「会ったよ」
「それで?」
「ウロウロした」
「どこを?」
「人の多いとこやだったから、ムービルのほう」
「ふうん」
「なんかさ、すごい自分の話ばっかするんだよ。
 いま働いてるとことか、親が結婚しろってうるさいとか、メル友いっぱいいるとか」
「チバに知ってほしかったんだよ、きっと」
「困る」
「メル友いっぱいいるなら、出会い系慣れてる人だったの?」
「ヘンにね」
「ヘンに?」
「今まで会った人みんなに可愛いって言われたって言うんだけどさ、……なんていうか」
「可愛くなかった?」
「まぁそう」
「29なんだよね?」
「うん。でも見た目は、29ではないかな……」
「あはは! どんな服着てたの?」
「まあ、その辺はいいじゃん」
「気になる〜!
 どっかお店入ったの?」
「いちおうね。
 近くの居酒屋入った」
「すぐバイバイしないとこはえらいね」
「出来ないよ。チバ、いいひとだし」
「チバ、いいひとじゃないよね」
「いいひとだよ?
 お金もちゃんと払ったし」
「あたりまえです」
「なんか仲のいいメル友いるんだってさ。
 でもその人はやらせろやらせろってうるさいから、うざいって」
「29だよね?」
「そう」
「やっちゃえばいいのに」
「うん。でも、処女は好きな人にあげたいんだってさ」
「ふうん。
 で、チバは好きな人だったの?」
「………」
「そうなんだ?」
「じゃないの?」
「チバ、惚れられちゃったんだ!
 じゃあ、した?」
「しないよ。そんな気分じゃないし」
「え〜? したんでしょ?」
「してないよ?」
「したよね?」
「してません」
「おもしろくな〜い!
 お酒飲んでしないなんて!」
「アイリはお酒飲んだらするの?」
「……アイリはお酒飲みません」
「うそ」
「いい子ちゃんだもん」
「いい子ちゃんは新宿で待ち合わせとかしないんだよ?」
「………」
「ごめん」
「お酒はね〜、おいしくないよ」
「そう? 甘いのならおいしくない?
 カルアとか、みんな好きだよ?」
「あれはダメ」
「なんで?」
「ダメなの」
「お酒飲むとどんなになるの?」
「チバはどんなになるの?」
「チバは声でかくなるね」
「もうじゅうぶん大きいよ?」
「もっとなるの。で、歌いたくなる」
「うるさそう〜!」
「うるさいよ?
 カラオケじゃなくても歌うね」
「迷惑ですよ」
「いいの、うまいから」
「うまいの?」
「うまいんじゃない?」
「そういう人、だいたいみんなうまくないんだよ?」
「そなの?」
「うん。B'zしか知らなかったりする」
「それはどうなんだろ?」
「どなんだろ?
 チバ、福山さん歌える?」
「歌えるよ」
「じゃあ、歌って」
「いま?」
「うん」
「それは無理」
「え〜、期待はずれ」
「何を期待してるんだよ?」
「福山さん」
「僕はチバです。福山さんじゃないです」
「カラオケ、いく?」
「いいよ。いこっか」
「お酒、飲むの?」
「飲みたいの?」
「それはどうでしょう?」
「飲みたいならいいよ。
 でも制服はヤバいからやめてね」
「チバ、困る?」
「困る」
「チバ、つかまる?」
「つかまる」
「ちょっと見てみたい」