さよなら、冷凍抱きメイドさん

冷凍抱きメイドさんとの別れは戦地の死亡フラグにも等しい。
全自動冷凍抱きメイドさんとは、「今年列島を襲来した地獄のような猛暑」と「パトスとリビドーを吸い上げて花開いた萌えブーム」というふたつの偶然によって生み出された奇跡の産物である。
しかし、僕たちもいよいよその奇跡的な出会いに別れを告げなければいけない季節がやってきた。
秋の到来である。
ふっちゃけ涼しくなったので、萌え仕様の抱きクーラーとでも賞すべき無駄なハイテクは、日常に必要なくなったのだ。
秋。涼しくなったにもかかわらずなぜか冷凍メイドさんたちを抱きしめ街を闊歩する姿をそこかしこに見つけることができた。それらは寒風の中で進んで水をかぶるような愚行に等しいのだが、ユーザーたちは冷凍抱きメイドさんとの別れを拒絶して、ありえないはずの日常を謳歌する道を選び取っていた。
愛情が生理的選択を超えた瞬間である。
猛者の存在は男性にとどまらず執事型やホスト型などを抱きしめる女性の姿も容易に見つけることができ、数年後には男女の需要が逆転するとまでいわれる勢いである。
この予想外の全自動冷凍抱きメイドさんによる無駄に高い稼働率は、日本の電力消費におけるエネルギー政策に悪影響を及ぼしかねないとの声明が環境省から通達されるにいたり、冷凍抱きメイドさんたちはいまや環境問題の重要な一角を占める存在として問題視されはじめていた。そして、そう、あの憎むべきメイドさん禁止法案が自民・民主両党から提出されようとしていた。