ラノベ『AKUMAで少女』

AKUMAで少女 (HJ文庫)

AKUMAで少女 (HJ文庫)

天使の容姿、悪魔の性格、そして心臓に欠陥を持つ少女、如月ゆり絵。彼女はある日、クマのぬいぐるみの姿をした悪魔を拉致。大好きな幼馴染の僚と恋仲になれるようにと、脅迫したら……なんと悪魔は僚とゆり絵の心と体を入れ替えたのだ! 性格ががらりとかわったふたりに学園は騒然。大騒動の中、ふたりの恋の行方は!?

ジュブナイルポルノ作家わかつきひかる*1が、ラノベ界に殴り込んで*2書き上げた、ラノベ処女作*3の作品。文章がこなれていて、特にエロめの描写はさすがに上手い。トランスセクシャル(性転換)ものだが、精神が入れ替わるパターン。上の表紙は、二人いるわけではなくて、同一身体で魂が入れ替わっている。背景に「♂♀」のマークがあるように、左側が男の主人公の魂が入った状態で、より女らしくなっている。

女性視点から、ラノベとしてはかなりあけすけに性転換生活を描いていて、例えば主人公の身体を得たヒロイン*4は、面白がって「自家発電」するだとか、一方主人公の方はトイレで用を足すときに陰部を拭いたりだとか、そんな描写がある。だいたい序盤でヒロインに主人公が犯されそうになるのだが、私は可愛いからつい犯したくなってしまった、ということをぬけぬけというヒロインの造形は、「AKUMA」的かもしれない。そして、中盤ではレズ女子生徒に関係を迫られる、という百合の展開もある。全体的にとても軽く明るく読みやすい内容になっている。

しかし、女性視点で描くがゆえの不満もある。まず、これはまあラブコメだからいいとして、アクションシーンは迫力がなくオマケ程度である。次に、主人公が弱く、かつ、美少年にもしない*5ので、中途半端になっている。作者は、ショタは引かれるので避けたらしいのだが、男が引くのはホモセクシュアルな関係で、美少年主人公はわりとよくあると思う。そして、物語は最初から最後までヒロインの欲望を中心に回っていく。主人公が好きなのはヒロイン一辺倒だし、彼女のわがままに終始振り回される。これらの他に不満はない。イラストは萌え絵柄。

*1:この肩書きは本人のブログに書いてある。参照:私はお約束を守ります。 - ジュブナイルポルノ作家わかつきひかるのホームページ

*2:大袈裟な表現のようだが、巻末の後書きには、ラノベの編集者に酷い言われようをした経緯が書いてある

*3:正確には、それ以前にジグザグノベルに寄稿していたが版元が倒産した。それも後書きに書いてある

*4:それにしてもこの手の身体交換ものは回りくどい書き方になってしまう

*5:「猿のよう」などと書かれる